東京地方裁判所 平成6年(ワ)20282号 判決 1998年6月02日
原告
本間好江
右訴訟代理人弁護士
白井正明
同
白井典子
被告
全国商工会連合会
右代表者会長
近藤英一郎
右訴訟代理人弁護士
杉山克彦
同
太田恒久
同
石井妙子
同
深野和男
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し、金二七八八万〇七七二円及び内金二二〇〇万円に対する平成六年一月一日以降、内金五八八万〇七二(ママ)二円に対する平成八年四月一日以降各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告の従業員であった原告が、被告からの執拗な退職勧奨を断ったところ、昇給、昇格において差別を受け、配転差別や嫌がらせなどの人権侵害を受けたとして、差別された賃金等相当額、慰謝料、退職金不足額等の請求をするものである。
一 争いのない事実
1 被告は、商工会法に基づいて設立された特別認可法人であり、各都道府県に設置された全国四七の都道府県商工会連合会(以下「県連」という。)をその会員とし、各地の商工会及び県連の健全な発展を図り、もって商工業の振興に寄与することを目的とする団体である。
また、全国商工連協力会(以下「協力会」という。)は、被告の協力機関として、商工業の振興に寄与することを目的として設立された法人格なき社団である。
2 原告(昭和一〇年一一月二六日生)は、昭和四二年八月二六日協力会に雇用され、昭和四四年二月一七日被告に出向したが、昭和六一年四月一日以降協力会に勤務し、平成元年九月二〇日以降再び被告に勤務するようになり、平成八年三月三一日定年により被告を退職した。
3 原告は、昭和四二年に協力会に雇用されてから平成八年に被告を定年退職するまでの間、昭和四七年四月と昭和五四年四月の二回昇格したのみで、平成元年四月一日に四級一七号に昇給して以来退職するまで昇格、昇給がなかった。
4 被告は原告に対し、原告の退職に際して、退職時の俸給月額(四級一七号)三三万八一〇〇円に勤続年数二八年八月の支給率五一・八一を乗じた一七五一万六九六一円を退職金として支給した。
二 争点
1 原告の主張
(1) 執拗な退職勧奨
原告は、職業安定所の紹介で採用され、派閥に属せず、有夫の女性であることから、昭和六〇年六月以来被告におけるリストラ策の一環としての人員整理のターゲットとされ、平成五年三月まで歴代の役員等から執拗な退職勧奨を受けた。被告の原告に対する退職勧奨は、原告が有夫の女性であるから生活に支障がないとして選定された点で憲法一四条、労働基準法三条、四条の趣旨に反するのみならず、原告がこれを明確に拒否した後も執拗に退職勧奨を続け、その説得の手段と方法は社会通念から見ても異常であり、更に昇給・昇格をはじめ、各種の待遇、取扱いにおいて故意に嫌がらせ的な差別を続けながら行った点で、悪質である。
(2) 昇給・昇格の停止
被告は、原告が執拗な退職勧奨を受け、これを拒絶した昭和六一年以降正当な理由なく昇格させず、更に平成二年四月からは昇給もさせずに放置した。被告による不当な差別がなければ、原告は、平成元年度において六級一六号、平成二年度において六級一七号、平成三年度において六級一八号、平成四年度において六級一九号、平成五年度から平成七年度において六級二〇号になっていたはずである。そうすると、本来原告に支給されるべき給与の年額は、諸手当を含めて、別紙<略>「昇給昇格が他の人と同様に行われた場合との給与の比較」(以下「比較表」という。)の本間A欄記載の各金額であるが、原告が実際に支給された年額は、同表のB欄記載のとおりであるから、その差額合計一〇九一万一八三三円の損害を被った。
また、被告は、原告に対する平成五年度の勤勉手当について、理由なく三万八六〇一円を減額して支給した。
(3) 配転の差別等
原告は、被告からの退職勧奨を断ったときから、不合理な配転を繰り返し受け、各職場において数々のいじめ、嫌がらせを受けた。すなわち、昭和六一年四月一日総務課所属として協力会の勤務を命じられ、そこでは残業を認めないという扱いを受けたうえ、他の職員の協力やアルバイトの支援もなく、協力会の当時の多忙な仕事を一人で行わざるを得なかった。次いで、平成元年九月二〇日には突然被告の振興部広域指導課に異動を命じられ、必要な事務引き継ぎの時間も与えられず、即日直ちに席を移動するようにと強要されるありさまであった。更に、平成二年六月一日には事業推進課に配転されたが、そこでは仕事を取り上げられ、平成四年三月までの二二か月間何の仕事もさせられないで机の前に座らせられた。そして、平成四年四月一日総務課役員班に配属されたが、そこで命じられた仕事は、役員班本来の仕事と全く関係のない、不必要と思われるワープロ入力作業や年賀状の作成等であった。翌平成五年四月一日に企画情報課に配転されて閑職に陥れられ、そのまま平成八年三月三一日定年退職せざるを得なかった。
(4) 原告は、被告の以上一連の不法行為等によって、次のとおり損害を被った。
ア 昇給・昇格差別による賃金等相当損害金
前記比較表記載の差額一〇九一万一八三三円と平成五年度の勤勉手当の減額分三万八六〇一円の合計一〇九五万〇四三四円の内金五〇〇万円。
イ 慰謝料
原告は、被告によるこれまで一四年間にわたる昇給・昇格差別、配転差別、嫌がらせなどの人権侵害行為によって多大な精神的苦痛を被ったが、これに対する慰謝料の額は一五〇〇万円を下らない。
ウ 弁護士費用
原告は原告訴訟代理人に対して、本件訴訟の提起及び遂行を委任し、その報酬として、第一審終結の際に二〇〇万円を支払う旨約束した。
エ 退職金
原告は、被告による不当な差別がなければ、本来退職時には少なくとも六級二〇号の扱いを受けるべきであったのであり、退職金として、基本給月額四〇万八一〇〇円に平成五年四月改正前の給与規程に従い勤続年数二八の二倍を乗じた金額に八か月分の加算額を加えた二三三九万七七三三円が支給されるべきであった。仮に平成五年四月改正後の給与規程が適用されるとしても、基本給月額四〇万八一〇〇円に勤続二八年の支給基準五〇・四九を乗じて得た額に八か月分の加算額を加えた二一一四万三六六一円が支給されるべきであった。したがって、原告に現実に支給された退職金一七五一万六九六一円との差額は、五八八万〇七七二円か、少なくとも三六二万六七〇〇円である。
(5) よって、原告は被告に対し、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償として、(4)のアからエまでの合計二七八八万〇七七二円並びにうちアからウまでの合計二二〇〇万円に対する平成六年一月一日以降、うちエの五八八万〇七七二円に対する平成八年四月一日以降各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告の主張
(1) 執拗な退職勧奨との主張について
被告では、昭和六〇年ころから平成三年ころにかけて、原則として年齢四〇歳以上の男女職員に対して、将来の生活設計を含めて退職の意向の有無等を確認したことがあるが、結婚していることを理由に退職を強要したり執拗な退職勧奨を行ったことはなく、まして原告を特定して既婚であることを理由に退職を強要したことはない。
(2) 被告における俸給制度
被告及び協力会においては、昭和四四年以降国家公務員の行政職俸給表(一)と同一の俸給表を用いており、職員の俸給額は、当該職員の職務の級と級毎に定められている号俸によって決定されるが、職務の級は一一級に分けられ、職位との対応は、事務局長級(一一級)、事務局次長級(一一級)、部長級(九~一一級)、室長級(八~一一級)、課長級(八~一〇級)、一般職員(一~七級)とされている。
職員が現在の号俸を受けるに至ってから一二か月以上を良好な成績で勤務したときは、その直近上位の号俸に昇給させることができ、また、現在の級を受けるに至ってから満四年以上を良好な成績で勤務したときは、直近上位の級に昇格させることができると定められている。そして、具体的な昇給、昇格の決定は、常勤役員である専務理事及び常務理事が職員の日常の勤務振りを把握しつつ、事務局長、総務部長及び直属の上司の意見を聴取したうえ案を作成し、会長が決定することとされている。
なお、平成五年四月一日以降、満五六歳以上五八歳未満の職員については六か月間昇給を延伸し、満五八歳以上の職員については昇給・昇格を停止すると改定されている。
(3) 原告の勤務状況
原告の勤務振りは、仕事が遅く、自分の非を認めずに言い訳したり、同僚や周りの人に文句ばかり言ったりし、上司の言うことを聞かない、協調性のない身勝手なものであった。
原告が平成二年四月に昇給しなかったのは、勤務状況が芳しくなかったためであり、原告自身も昇給がないことを承服している。平成三年、四年も勤務状況の改善の跡が見られず、良好な成績で勤務したとはいえないことから、昇給は行われず、平成五年四月一日から六か月間の昇給延伸の対象となり、依然として勤務状況の改善が見られなかったため昇給しないまま、同年一一月二六日には満五八歳となって昇給・昇格は停止された。
(4) その他の差別の主張について
原告に対しては採用から退職に至るまで差別と目されるような事実は一切ないうえ、その処遇について服務規程や給与規程に反する点は些かもない。原告の勤務振りに照らせば、その処遇は相応というべきであって、原告の本件請求はいずれも理由がない。
第三判断
一 退職勧奨について
1 (証拠・人証略)及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告においては、昭和六〇年三月ころ改革基本会議を発足させ、被告の効率的運営の方途を求めて、事業並びに組織の活性化を図りつつ、事業等の合理化・簡素化計画を検討し、実行可能なものから逐次実施に移していった。その中で、「事務局機構の合理化・簡素化」の施策の一つとして、「職員の定数削減」が掲げられ、退職した職員の補充を行わず、逐次、職員の定数を削減し、また、「職員の機動的運用」が掲げられ、事務局は、少数精鋭を旨として編成し、とくに、同一部(室)内においては、職員の機動的運用に努めることとされた。
(2) 被告は、右の事業等の合理化・簡素化計画の実施の過程において、原則として年齢四〇歳以上の全職員を対象に、将来の生活設計を含めて退職の意向の有無等を確認した。
(3) 原告は、昭和六〇年六月ころから一二月ころにかけて、被告の当時の中場常務理事や能登専務理事から再三退職勧奨を受けたが、職場の近くにマンションを購入し、そのローンが残っているので退職するわけにはいかないとして、一貫してこれを拒絶した。
2 原告は、職業安定所の紹介で採用され、派閥に属せず、有夫の女性であることから人員整理のターゲットとされ、昭和六〇年六月から平成五年三月まで歴代の役員等から執拗な退職勧奨を受けた旨主張する。しかし、右に認定したとおり、被告は、事業等の合理化・簡素化計画の一環として、原則として年齢四〇歳以上の全職員を対象に退職の意向等を確認したというのであり、有夫の女性であることなどを理由に原告を特定して退職を勧奨したとは認められないし、また、その説得の手段と方法が社会通念に反し、違法性を帯びるほど執拗なものであったと認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告の原告に対する退職勧奨自体が不法行為を構成するかのような原告の主張は採用できない。
二 昇給・昇格の差別について
1 (証拠・人証略)、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告における俸給制度
被告及び協力会においては、昭和四四年以降国家公務員の行政職俸給表(一)と同一の俸給表が用いられており、職員の俸給額は、当該職員の職務の級と級毎に定められている号俸によって決定されることになっている。そして、被告の給与規程によれば、職務の級は一一級に分けられ、職位との対応は、事務局長一一級、事務局次長一一級、部長九~一一級、室長八~一一級、課長八~一〇級、一般職員一~七級と定められている(三条二項)。職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから、一二か月以上を良好な成績で勤務したときは、その直近上位の号俸に昇給させることができ(六条一項)、また、現に受けている級を受けるに至ったときから満四年を良好な成績で勤務したときは、その直近上位の級に昇格させることができる(同条二項)と定められている。具体的な昇給、昇格の決定は、常勤役員である専務理事及び常務理事が職員の日常の勤務振りを把握しつつ、事務局長、総務部長及び直属の上司の意見を聴取したうえで案を作成し、会長が決定している。
調整手当は、物価等地域の特性等を考慮して支給される手当で、その月額は、俸給の月額と扶養手当の月額の合計額の一定率と定められている(給与規程一〇条)。
住居手当は、自ら居住するため住宅(貸間を含む。)を借り受け、所定の月額を超える家賃を支払っている職員又はその所有に係る住宅に居住している職員で世帯主である者に支給される(給与規程一一条一項)。なお、同手当を支給されるためには、要件を具備するに至った際、速やかに所定の住居手当支給申請書を提出し、承認を受けなければならないと定められている(同条三項)。
役職手当は、課長補佐以上の役職にある者に対して毎月その俸給月額の一定率が支給されるものである(給与規程一三条)。
期末手当は、三月一日、六月一日及び一二月一日(基準日)にそれぞれ在職する職員に対して支給される手当で、その額は、期末手当基礎額(基準日現在において受けるべき俸給及び扶養手当の月額並びにこれらに対する調整手当の月額の合計額)に所定の率を乗じて得た額に、在職期間の区分に応じて定められた割合を乗じて得た額とされている(給与規程一六条)。
勤勉手当は、六月一日及び一二月一日(基準日)にそれぞれ在職する職員に対し、基準日以前六か月以内の期間における勤務成績に応じて支給される手当で、その額は、勤勉手当基礎額(基準日現在において受けるべき俸給の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額)に勤務期間による割合(期間率)と勤務成績による割合(成績率)を乗じて得た額とし、成績率は、一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下と定められている(給与規程一六条の二)。各職員の成績率の決定については、従来全職員に対して一律一〇〇分の六〇で運用されてきたが、平成五年六月以降これを改め、課長補佐以下の職員については、所属部長と直属の上司である課長が、成績率評定要領に基づいて査定をし、成績率を決めたうえ、会長、専務理事、常務理事及び事務局長で構成される評定委員会において部門による隔たりがないかなどを確認して、会長が決定することとされた。
(2) 給与規程等の改正
被告は、平成五年二月、予め原告を含む職員の承諾を得たうえ、服務規程及び給与規程を改正し、同年四月一日から実施した。その主な改正点は、四週六休制から完全週休二日制に改めたこと、職員の定年退職日を満六〇歳に達した日の属する月の翌月の末日から、満六〇歳に達した日の属する事業年度の末日に改めたこと、五六歳以上五八歳未満の職員については六か月間昇給を延伸し、五八歳以上の職員については昇給・昇格を停止するという昇給・昇格の延伸・停止制度を新たに設けたこと、退職手当の算定方式を、退職時の俸給月額に勤続年数及び勤続年数の区分に応じて定めた倍数(例えば、勤続年数二〇年以上の場合二・〇)を乗じて得た額から、俸給月額に退職事由別区分の勤続年数に応じて別表に定める率(例えば、勤続年数二八年で定年退職の場合五〇・四九)を乗じて得た額に改めたことなどである。
(3) 原告の勤務状況
原告の勤務振りは、概していえば、仕事が遅く、自己流の処理の仕方に固執して容易に改めようとせず、同僚や周りの人に文句を言ったり、上司の言うことを素直に聞き入れないなど、協調性に欠けるものであった。原告は、平成二年三月、被告から指摘を受けた<1>出入り業者に対する代金の支払遅延の件、<2>帳簿への記帳が不完全であった件、<3>事務の引き継ぎが不完全であった件、<4>被告から貸与された制服の私物化の件の四点について、常務理事あてに顛末書を提出し、同年四月一日から向こう一年間の昇給停止を承服する旨付記した。
(4) 原告の昇格、昇給の経過
原告は、昭和四四年四月一日に七等級七号俸に格付けされ、昭和四七年四月一日に六等級に、昭和五四年四月一日に五等級にそれぞれ昇格した。昭和六〇年四月一日の制度改正により、旧五等級は新たに四級に格付けされたが、平成元年四月までは毎年一号俸ずつ昇給して、四級一七号まで達した。しかし、前記顛末書の経緯から、平成二年四月の昇給は成績不良を理由に見送られ、平成三年四月、平成四年四月の昇給も勤務状況の改善の跡が見られないとして見送られた。そして、前記のとおり、平成五年四月一日以降昇給・昇格の延伸・停止制度が導入され、原告は当時すでに満五七歳に達していたため昇給延伸措置の対象となったが、同年一〇月の昇給もないまま、同年一一月二六日には満五八歳に達したため、以後昇給・昇格は停止された。
2 右に認定した事実によれば、昇格については、現に受けている級を受けるに至ったときから満四年を良好な成績で勤務したという要件を充足する必要があるのはもとより、給与規程の上で職位との対応が定められていることからして、上位の級に昇格するためには、所定の職位(役職)に就くことが前提になっているものと解すべきであり、一級から七級までと幅広い格付けがされている一般職員についても、これに準じて上位の級に相応しい職務能力が備わっていることが要求されるといわざるを得ない。ところで、原告は、被告による不当な差別がなければ、平成元年度において六級になっていたはずであると主張するが、その昇格の根拠について具体的な主張立証はないし、被告における右の昇格制度に照らして、被告が原告を五級以上の級に昇格させなかったことを違法と評することはできない。
次いで、昇給については、平成元年四月までは原告も毎年一号俸ずつ昇給していたというのであり、平成二年四月以降満五八歳に達したことにより昇給停止となる平成五年一一月二六日までの間一度も昇給させなかったことは、原告にとって些か酷ではないかとの感は否定できない。しかし、給与規程によれば、職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから、一二か月以上を良好な成績で勤務したときは、その直近上位の号俸に昇給させることができるとされており、良好な勤務成績を要件にしているところ、原告の勤務状況は前記のとおりであって、決して芳しいものとはいえないこと、原告は、被告から指摘された四点について被告の常務理事あてに顛末書を提出し、その中で少なくとも平成二年四月一日から向こう一年間の昇給停止を承諾したと認められることなどの事情を併せ考慮すれば、被告において原告が良好な成績で勤務したとは認められないと判断したことは、昇給の決定に関して被告の有する裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したとまではいうことができない。したがって、被告が平成二年四月以降定年退職するまで原告を昇給させなかったことについて、当、不当の問題が生じるのは格別、違法とまで評することはできない。
3 なお、原告が比較表において主張する諸手当の差額については、まず、調整手当及び期末手当は基本給に連動するものであるから、基本給の格付けが違法といえない以上、原告の主張は理由がない。住居手当については、前記認定のとおり、支給を受けるためには所定の住居手当支給申請書を提出して被告の承認を受けなければならないところ、原告がこの手続き履践したことの主張立証はないから、原告の主張は理由がない。役職手当については、前記のとおり、課長補佐以上の役職にある者に対して支給されるものであるところ、原告は課長補佐以上の役職に就いていないのであるから、支給されないのは当然である。勤勉手当については、前記認定のとおり、その額は勤勉手当基礎額に期間率と成績率を乗じて得た額とされ、成績率は、所定の要領に基づいて各職員の勤務状況による査定が行われることになっている。そして、原告が特に指摘する平成五年度の勤勉手当については、(証拠・人証略)によれば、原告の同年一二月期の勤勉手当の成績率は、原告の勤務状況を勘案して一〇〇分の五〇と決定されたことが認められ、被告のこの決定を違法とする根拠は見当たらない。したがって、平成五年度の勤勉手当を理由なく減額されたとする原告の主張は、失当である。
三 配転差別その他の差別について
原告は、被告からの退職勧奨を断ったときから、不合理な配転を繰り返し受け、各職場において数々のいじめ、嫌がらせを受けた旨主張する。
しかし、昭和六一年以降の原告の配置転換について、その必要性がなかったとは認められないし、これにより原告が通常甘受すべき程度を超えた不利益を被ったと認めるに足りる証拠もない。もっとも、原告が配置された各職場において、必ずしも原告自身が満足すべき内容の職務を与えられたとはいえず、職場の上司や同僚等との人間関係もうまくいかなかったことが窺われるけれども、これも原告の長年にわたる芳しくない勤務態度、とりわけ協調性の欠如に起因するところ大といわざるを得ず、これをもって、不法行為を構成するほど違法性を帯びた職場のいじめや嫌がらせとまではいうことができない。
四 退職金について
原告は、本来退職時には少なくとも六級二〇号の扱いを受けるべきであり、その基本給月額を基礎に平成五年四月改正前の給与規程の定めに従って退職金の額を算定すべきであると主張する。しかし、先に判示したとおり、原告が退職時に六級二〇号に格付けされるべきであるとの前提自体認められないし、平成五年四月以降実施された給与規程の改正については、退職手当の額の算定方式の改定も含めて、原告は他の職員とともに予めこれを承諾したのであるから、今更改正前の給与規程の適用を主張するのは許されない。そうすると、原告の退職時の俸給月額(四級一七号)三三万八一〇〇円に改正後の給与規程による勤続年数に応じた支給率五一・八一を乗じて得た一七五一万六九六一円を退職金として支給した被告の措置に違法はない。
五 結論
以上のとおり、被告が原告に対して行った退職勧奨、昇給・昇格、配転等に関する取扱い、退職金の算定において違法はなく、原告の本件請求はいずれも理由がないから棄却して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論の終結の日 平成一〇年一月二七日)
(裁判官 萩尾保繁)